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令和8年9月30日作成

抵当権抹消登記を忘れていた場合、銀行から受領した古い書類はそのまま使えるのか?

住宅ローンを完済したら、不動産に設定されている抵当権の抹消登記をする必要があります。ただし、完済しただけで自動的に消えるわけではありません。一般的に、完済した場合は金融機関からその手続きに必要な書類が交付されます。いわゆる抹消書類と言われるものです。ただ、この書類を受け取っただけではだめで、法務局に対して自発的に抵当権抹消登記申請手続きをする必要があります。この手続きは自分でする人もいれば、司法書士に頼む人もいます。ただ、どちらにしてもまずは本人から進め始めなければならないため、書類を受け取ったもののそのまま長年放置され、家族も気が付かないままそのご本人が亡くなってしまうというケースが非常に多いです。そしていざ相続手続きする際に、抵当権が残っていることが明るみになるという事態が生じます。

この抹消登記を忘れていた場合はどうすればいいのでしょうか。このページでは、忘れていた抵当権の抹消方法についてご案内致します。

このページの内容に当てはまる方

  • 自宅などの不動産を相続したが
  • 相続した不動産に、完済したはずの抵当権が抹消されず残っていた
  • ただし、銀行からもらった「抹消書類」はちゃんと保管されていた
  • 抹消書類が何年も前のものなので、果たして有効なのか不安を感じている

目次

  1. 抹消登記は相続人から申請が可能
  2. 金融機関からは、どんな書類が渡されるのか
  3. それぞれの書類に有効期限はあるか?
  4. 委任状の内容が、現在と一致しない場合は!?
  5. 「代理権不消滅」の規定とは
  6. 代理権不消滅による抹消の手続き方法
  7. その他の注意点
  8. まとめ

完済したはずなのに抵当権が残っていた

司法太郎さんは若い頃に住宅ローンを組んで一軒家を購入しました。長年勤めた会社も定年退職になり、退職金で住宅ローンを繰り上げ完済しました。

「やれやれ、ようやく俺の肩の荷も下りたな」

銀行から完済書類をもらって安心した太郎さんはそのまま書類をタンスにしまっておきました。

 

時は流れ、太郎さん夫妻が亡くなり、息子の一郎さんが親の一軒家を相続することになりました。

「慣れ親しんだ家も俺の名義になるのか…」

一郎さんは司法書士に相続登記の依頼をしに行きました。司法書士は話を聞いた後「今の状態を確認するために不動産の登記事項証明書を取ってみましょうか」と取得したところ、なぜか抵当権が残っていました。

「あれっ親父は住宅ローンを完済したって言っていたのに、なんで抵当権が残っているんだ??」

一郎さんは驚きました。司法書士は一郎さんに住宅ローンを完済した時に銀行から書類をもらわなかったか確認しました。

「親父は大事なものはタンスにしまうから、あるかもしれない…」

自宅に戻った一郎さんがタンスの中を探したところ、思った通り銀行からの委任状など一式が見つかりました。

「大分古い日付だけど使えるのだろうか…」

疑問が残りつつも司法書士に相談することにしました。

1.抹消登記は相続人から申請が可能

まず、そもそも住宅ローンの当事者が死亡した状態で、抵当権の抹消登記が申請できるのかどうかという問題点がありますが、この点は問題なく解決できます。第一に、不動産を誰が相続するかが決まり、その方名義に相続登記を行えば、新たに相続した方が登記権利者という立場で申請人となることが出来ます。

また、遺産分割が未了で相続人が決まっていない場合でも、相続人の内の1名であれば、それを証する戸籍を添付して「保存行為」として申請人になることが可能です。

2.活用方法

住宅ローンを完済すると、金融機関から抵当権を抹消するための書類が渡されます。

書類の名称や内容は金融機関によって異なりますが大きく分けて3種類です。

  • 1
    登記済証もしくは登記識別情報、いわゆる権利証と呼ばれているもの
    (登記済証の場合「金銭消費貸借契約書」「ローン契約書」など、会社によって様々な名前で作成されていますが、法務局の登記済印が押されていることが共通です。ここ最近は制度が変わり登記識別情報という一律の紙面になります)
  • 2
    登記原因証明情報
    (こちらも会社によって「解除証書」「放棄証書」など様々な形式で作成されています)
  • 3
    「委任状」

が必須となります。

それ以外には事案によって異なる証明書が交付されることがあります。ここでいう「登記済証」もしくは「登記識別情報」は、抵当権を設定した際に法務局から発行される書類です。再発行することはできず、抵当権者である金融機関が保管しています。住宅ローンを完済した際に金融機関から交付されます。また、「解除証書」や「委任状」は、住宅ローンを完済した際に抵当権者である金融機関から交付される書類です。

3.それぞれの書類に有効期限はあるか?

では、住宅ローンを完済してから何年も経った後に、当時の解除証書や委任状が見つかった場合はどうすればよいのでしょうか。古い書類だからといって、必ず使えなくなるわけではありません。上記の書類には、基本的に有効期限の定めはありません。そのため、何年前、もしくは何十年前の書類であっても、それだけをもってその書類が登記に使えなくなるということはありません。まずはこの点ご安心ください。もっとも、次に述べるように「委任状」については別の問題点があります。

4.委任状の内容が、現在と一致しない場合は!?

有効期限の問題はないと言えど、その内容が古すぎると現状と相違するケースがあります。その代表的な例が、代表取締役が一致しないというものです。金融機関の代表取締役は、かなりの頻度で入れ替わります。10年前、20年前と言った昔のケースだと、今も同じ人が代表者であることはほとんどないと言っても過言ではありません。そうなると、その委任状は果たして有効に使用することが出来るのかという新たな疑問が発生します。

この問題ですが、実は当時の金融機関の代表者と現在の代表者が変わっていたとしても、一定の条件を満たせば、当時の代表者が記載された解除証書や委任状をそのまま使って抵当権抹消登記ができる場合があります。このような場合に関係してくるのが、「代理権不消滅」という不動産登記上のルールです。

5.「代理権不消滅」の規定とは

民法111条(代理権の消滅事由)では、委任による代理権が委任の終了によって消滅すると記載されています。そのため、原則として銀行の代表者の代表権限は代表者交代によって消滅します。しかしその例外として不動産登記では「代理権不消滅」という規定が設けられています。

条文

【不動産登記法第17条(代理権の不消滅)】

登記の申請をする者の委任による代理人の権限は、次に掲げる事由によっては、消滅しない。

一 本人の死亡

二 本人である法人の合併による消滅

三 本人である受託者の信託に関する任務の終了

四 法定代理人の死亡又はその代理権の消滅若しくは変更

この17条の4号の「法定代理人」とは会社の代表者も入ります。

つまりどういうことかというと

抵当権者である金融機関の代表者に変更があっても、代理人の権限は消滅しないので過去の代表者が記載された委任状等を使って抵当権の抹消登記を行うことができるということです。

6.代表者に変更があった場合の代理権不消滅による抹消の手続き方法

ではこのまま抵当権抹消登記をすればいい、というわけではありません。

手続き方法が普通の抵当権抹消登記とは異なります。

なお、ここではオンライン申請の場合の申請方法をご案内致します。

通常のケースによる抵当権抹消登記の申請書には①登記の目的 ②登記原因と日付 ③登記権利者 ④登記義務者 ⑤添付情報 ⑥その他事項 等を記載します。

  • 1
    抵当権抹消
  • 2
    令和8年9月1日解除
  • 3
    住所 氏名
  • 4
    住所 氏名
  • 5
    登記識別情報、登記原因証明情報、会社法人等番号、代理権限証明情報

抵当権の抹消をする場合の④登記義務者 は金融機関から受領した委任状に記載がある代表者名を記載します。

  • 4
    東京都品川区西五反田八丁目〇番〇号
    株式会社〇〇銀行
    (会社法人番号 〇〇〇〇)
    代表取締役 甲野太郎

ただし、過去の代表者が記載された委任状の場合は記載方法が異なります。

この場合、申請書には委任状の過去の代表者名を記載するのではなく「現在」の代表者を記載することになります。

委任状に記載されているのが過去の代表者名「乙野次郎」であり、申請時の今の代表者が「甲野太郎」であった場合

  • 4
    東京都品川区西五反田八丁目〇番〇号
    株式会社〇〇銀行
    (会社法人番号 〇〇〇〇)
    代表取締役 甲野太郎 ※委任状の乙野次郎の名前ではありません!!

そして「その他事項」に「代表取締役乙野次郎の代表権は消滅しているが、委任状及び抵当権解除証書交付時には代表権を有していた。」等の記載をします。

通達

【平成5年7月30日 法務省民三第5320号】

第二 登記申請代理権の不消滅に関する規定の新設

一 委任による登記申請代理権の不消滅に関する規定が新設されたが、委任者の法定代理人の 代理権が消滅した場合もこれに該当し(法第26条第3項)、この場合の法定代理人には、 法人の代表者も含まれる。したがって、細則第44条の8第1項に規定する場合において、 申請書に添付された登記申請の代理権限を証する書面の作成名義人である法人の代表者が 現在の代表者でないと認められるときであっても、次に掲げる場合には、これを適法な登記申請の代理権限を証する書面の添付があるものとして扱う。なお、その申請が細則第4 2条第1項又は第42条の2第1項の申請であるときは、当該代表者の印鑑証明書(作成 後3か月以内のものに限る)の提出があることを要する。

 ア 登記申請の代理人が当該代表者の代表権限が消滅した旨及び当該代表者が代表権限を有していた時期を明らかにし、当該法人の登記簿でそのことを確認することができる場合 イ 当該代表者の代表権限を証する書面(作成後3か月以内のものに限る。)が申請書に添 付されている場合

 二 委任による登記申請代理権の不消滅に関する規定は、登記申請の委任がされた後、改正法 施行前に本人の死亡等の事由が生じた場合には、適用されない(改正法附則第2項)

上記の通り、以前は代表権が消滅したことだけではなく、その代表者がいつからいつまで代表権限を持っていたのかも明らかにするという取扱いがされていました。

しかし、平成27年10月23日付けの通達によって、会社法人番号を提供すれば、旧代表者の代表権が消滅していることを明らかにすればよく、代表権限を持っていた期間まで申請書に記載する必要はないという運用に変更となっています。

7.その他の注意点

金融機関の商号や本店が変わっている場合

代表者だけではなく、金融機関そのものの商号や本店が変わっている場合もあります。

この場合も、必ずしも追加の書類が必要になるわけではありません。

基本的には現在の商号・本店を申請書に記載します。会社法人番号が以前の商号・本店時から変更がないのであれば、その番号を記載すれば良く、別途、商号・本店の変更を証明するための登記事項証明書を提出する必要はありません。

もっとも会社法人等番号が変わっているなど、現在の会社法人等番号だけでは過去の登記上の情報とのつながりが確認できない場合には、閉鎖登記事項証明書などを提出して変更の経緯を証明する必要があります。

委任状の日付

金融機関から受領した委任状の日付は空欄であることが多いです。本来では金融機関が日付も入れたうえで発行されているはずのものではありますが、実務上空欄のままで渡されることが多く、致し方なく本人が代筆しなければならないことが多いのが現状です。もっとも、この日付は注意が必要です。

空欄になっているからと言って、うっかり今の日付を書いてしまったりすると、その代表者は今現在は在任していないはずなので矛盾が生じます。日付については、きちんと矛盾のないように完済した銀行に確認する等、注意が必要です。

「代理権不消滅」の条件にあてはまるか?

古い解除証書や委任状があるからと言って必ずしも「代理権不消滅」で抵当権を抹消できるわけでありません。不動産登記法17条4号にあてはまるか確認が必要になります。

代理権不消滅の問題は、例えば、株式会社A銀行の代表取締役が甲野太郎から乙野次郎に交代した場合のように、法人自体は存続していて代表者だけが変わったケースで使うことが主になります。また①のように商号や本店が変わっていても、会社法人番号や登記事項証明書で変更の経緯を証明できれば、この規定を使える可能性があります。

ただし、委任をした法人そのものが解散し、別の法人が権利義務を承継している場合は、単なる代表者の交代とは事情が異なります。

例えば住宅金融公庫は、住宅金融支援機構の成立に伴って解散し、その権利義務を住宅金融支援機構が承継しています。そのため、40年前の住宅金融公庫の委任状が残っているからといって、代理権不消滅で抹消できるとは限りません。会社法人等番号が変更されていて、閉鎖登記事項証明書も保存期間の経過で廃棄されている場合には変更の経緯を証明することができません。その場合は、「代理権不消滅」での抹消ではなく、再度住宅金融支援機構に完済書類の発行を依頼する必要がある可能性があります。

8.まとめ

司法一郎さんはタンスから発見した書類を司法書士に渡しました。確認したところ、古い解除証書や委任状ではあるものの、現在の金融機関と本店・商号・法人番号も変わりがなく代表者だけが過去の代表者となっているので、新たに金融機関から書類を発行してもらうこともなく「代理権不消滅」の規定で抵当権を抹消することができました。

住宅ローンを完済しても抵当権抹消登記を長期間忘れている場合があります。

その場合、金融機関から受領した委任状や解除証書をそのまま使える「代理権不消滅」という規定が適用できるケースもあります。今回は相続でのケースをご案内しましたが、ご自身が抵当権抹消登記を忘れていた場合についても同様です。

ただし、必ずしも規定が適用できるとは限りません。

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